ミシェル・ンデゲオチェロの正体を暴く|影響を受けた人物|芸術性と商業主義 (1/2)

2018年4月6日、チャールズ・ウェアリング

「私に対して先入観を持ってる人は多い。大抵の人は私のことを背が高くて…怒ってる奴だと思ってるけど、実際は子羊ですよ。」

  

そう言いながら笑うミシェル・ンデゲオチェロは、圧倒的な個性を放つベーシスト/シンガーソングライターであり深遠な思想家でもある。

  

彼女の作る作品には、人種的アイデンティティー、性的政治、形を変えていく愛の力など、時に挑発的なテーマがある。そんなミシェルは、彼女の音楽を夢中で聴くファンが見ている“ミシェル・ンデゲオチェロ”像と実際の自分には接点がなく、切り離された関係だと言う。そして、自らもその罠にはまったことがあると、プリンスとの関わりを振り返りながら話してくれた。

  

「プリンスの音楽は大好きです。子供のときに彼の音楽を見て音楽をやりたいと思いました。」

  

しかし、実際に憧れのプリンスに会ってみると大きな失望感を感じたと言う。詳細には触れなかったが、こう話してくれた。

  

「自分の憧れのヒーローには絶対会うなって言う人もいるでしょ、心底同感ですね。」

   

プリンスは彼女の12枚目で最新のアルバム“Ventriloquism(腹話術)”でもカバーされている。このアルバムは80年代ヴィンテージR&Bのトリビュートで、ミシェル自身の独創性を曲に刻み込んだ素晴らしい作品となっている。カバーしたアーティストには、リサリサ&カルト・ジャム(“Take Me Home”)、ジャネット・ジャクソン(“Funny How Time Flies”)、TCL(“Waterfalls”)、ジョージ・クリントン(“Atomic Dog”)、ザ・システム(“Don’t Disturb This Groove”)などがいる。

   

ンデゲオチェロは、このアルバムの裏にある思想についてこう話す。「このアルバムを作ったのが1年前で、すごく波乱の時期になった。この時期に私は片方の親を亡くし、あるバンドメンバーは両親とも亡くしたんです、本当に色んなことがあった。」

   

  

人は死別によりしばしば人生について考えさせられ、過去を顧みる。彼女は親の死を悼む中で曲へのインスピレーションを得たが、そうさせたのは皮肉にも往年の曲だった。

  

「親の部屋にある古いレコードを引っ張り出して全部に目を通したり、ラジオを聴いたりもしてます。親のレコードもラジオで流れていたものが多いです。そこが音楽の素晴らしい所ですよね。気持ちをなぐさめ、心に寄り添うタイムマシンになってくれる。このアルバムのアイデアはそんな色々な気持ちが元になってます。深い悲しみや時間の足りなさ、懐かしさや感傷的な気持ち、そして曲への純粋な愛。」

   

AL B.シュアの“Nite & Day”やシャーデーの“Smooth Operator”には、若い頃に多大な影響を受けたと言う。

「この2曲はホントに私の人生を一変させるような曲だった。それから(フォース・エム・ディーズの)“Tender Love”はおもしろくて、この曲の話をするとみんなが鮮明な思い出話をするし、この曲が自分にとってどんな存在だったかを話す。それぞれの曲が意味を成していたってことです。」

このアルバムは、特にミシェルのように80年代後半に成人した世代や、本収録曲が人生のサウンドトラックになっている人にとって懐かしさを呼び起こす作品であるのはもちろん、斬新さや現代らしさも持ち合わせている。彼女は2012年のニナ・シモンへのオマージュ然り、このアルバムでも自身の刺激となった原曲たちの雰囲気をガラッと変え、新しいイメージを与えるアレンジに仕上げている。“Ventriloquism”のサウンドは聴く者を新たな音楽の宇宙へといざなうかのようだ。

  

「曲は乗り物」だとミシェルは言う。「想像力が豊かすぎる私みたいな人には、既に素晴らしい素材を使って頭の中をひたすら旅すればいいというのは、すごく楽しい。」

  

  

アルバム中3曲はミネアポリスのデュオ、ジミー・ジャム&テリー・ルイスによって書かれたものだ。二人は80年代にソングライターやプロデューサーとして有名になったザ・タイムの元メンバー。「クレジット作業に入るまで気づかなかった」と話すミシェルは、本アルバム用にジャム&ルイスのプロデュースによるシェレール&アレクサンダー・オニールの“Saturday Love”を録音したが、完成させるには至らなかった。

  

あの頃の音楽への強い嗜好を興奮気味に語る。「ジャム&ルイスは当時を代表するソングライターです。彼らのことを振り返って考えてました。二人はプリンスとツアーをまわって、そのあとS.O.S.バンドのプロデュースのオファーもゲットして、プロデューサーとソングライターとして自分たちの夢を上手に追っていたと思う。彼らの曲は深いものばかりでした。(マイケル・ジャクソンの)“Human Nature”やヒューマン・リーグの“Human”は最高。」

  

ジャム&ルイスがザ・タイムの活動以外で作曲活動をしていたためにプリンスが二人を解雇したことについて「ツアーから抜けちゃいましたね」と笑うミシェル。「でもそのほうが良かったと思う!」

  

プリンスといえば、ミシェルは今回のアルバム“Ventriloquism”で彼の挽歌的バラード“Sometimes It Snows In April”をカバーしているが、この曲は本アルバムでは唯一ヒットもシングルリリースもされていない曲である(酷評されたプリンスの映画『アンダー・ザ・チェリー・ムーン』のサウンドトラック“Parade”収録曲)。

  

この曲を選んだ理由は、「ラブソングや失恋ソングならみんな書ける、でもプリンスは聴く人が追悼できる曲を実際に書いたんです。」

  

プリンスからは子供のころに多大な影響を受けたと言う。

「彼のデビューアルバム“For You”は私のすべてを変えました。あの迫力、シンセサイザー、しかも全部自分で弾いてるなんて。ソウルフルでロックだった。純粋さにも掻き立てられたし、焦らすような歌詞も良かった。すごく好きでした。プリンスとスティービーワンダーは二人とも全部自分でやるところに刺激を受けました。特に私の最初のレコード(93年“Plantation Lullabies”)は全部自分でいろいろ弾いて、ドラムもパソコンで作ったんです。私はこの二人ほど才能はないけど、彼らのアルバムを聴いたとき『私にもできるかも、ミュージシャンになれるかも』と思った。」

  

本アルバムでも印象的なバラードの一つがティナ・ターナーのヒット曲“Private Dancer”だ。この曲はダイアー・ストレイツのギタリスト、マーク・ノップラーによって書かれた。原曲ではミドルテンポのグルーヴだが、ミシェルはこれをゆっくりと官能的で気だるいワルツへと再構成している。

  

この曲はすごく好きです。若いときに惹かれて、この歌詞を感じさせられるような自分なりのアレンジをしたいと思った。原曲には軽快さがあるけど、歌詞を聴くたびにすごく重い感じがしたのでそんなアレンジにしたかった。」

   

ミシェルは、鋭い洞察力で女性目線の歌詞を書いたマーク・ノップラーに興味を示す。

「本人に会って当時のことを聞いてみたい、すごく興味があります。彼は熟練したギタリストだから、ヒット曲を生んだあとに踏ん張らなきゃいけなかったのかどうか、強気なミュージシャンで行くかポップの道をつき進むかで悩んだかどうか、とか。いつか偶然会えたらいいですね。」

  

  

今回のアルバムでは、ミュージシャン、エンジニア、ミキサー、共同プロデューサーに至るまで、前作に引き続き起用されている人物が多い。「私たちはチーム」と、彼らの貢献を評価するミシェル。「“ミシェル・ンデゲオチェロ”というバンドだと言っています。バンドみたいに似た視点を持った人たちの集まりだし、そのつもりで扱っているプロジェクトも多い。」

  

中でも、このアルバムでミキシングとマスタリングを担当したピーター・ミンに敬意を表す。

「音に関して信頼し合えているのが素晴らしい、特に私がミキシングに関わる時間がないときは。録音したものから暗に示したいことがあって、それについて明快さと理解を持っている人と仕事できるのはすごく良いですね。バンドとして演奏するときは特にそう。私たちは録音の段階で欲しかった音が録れることが多いので、それを再解釈するんじゃなくて既にあるものを美しくしてくれる人が欲しかったんです。」

  

ミシェルのバンドではギターのほとんどを長年の仲間であるクリス・ブルースが担当している。「彼は素晴らしいギタリストで、友人であり共同制作者でもある。本当にありがたい存在。」と熱心に語るミシェル。彼女のプロデューサーでキーボーディストのジェビン・ブルーニに出会ったのもブルースを介してだった。

  

「ジェビンはティアーズ・フォー・フィアーズ、PIL、エイミー・マンとも仕事をしたことがある人。音のヴィジョンがとてもハッキリしています。彼のシンセのテクスチャーやピアノ使いは最高。」と話すのは、ミシェルバンドのドラマーでオーストラリア出身のエイブラハム・ラウンズ。そんな彼を「一緒に演奏するには最高のドラマー」話すミシェル。

  

「やりながら作曲できてしまうミュージシャンです。あまり変化のないドラムマシンとは違う。“Smooth Operator”も彼がアレンジしました。」

  

バンドメンバーが全員ギターとベースを弾けるという点が、お互いの音楽的感覚を近くしているのだろう。音楽以外でも関心事が重なる部分があると言う。「アート、クラフト、文学、映画についても色々紹介しあっているし、みんなお互いの美的感覚に楽観的な信頼関係があって…それが時間が経つほどに良くなっていくんだと思う。」

  

これほど密接な関係のチームなら外部からミュージシャンを呼ぶ必要はないと思うだろう。しかしミシェルはベーシストのカーヴェー・ラステガー(ジャズのインプロバンドKneebodyのメンバー)、ギタリストのジェフ・パーカーとアダム・レビーを今回のセッションに招き入れた。

  

「たまには違う人たちの想像力を取り入れて、色を加えたり視野を広げるのは良いことだと思う」とミシェル。「その部屋にいる一人一人が空気やムードを変えてくれる。」

  

コラボレーションから生まれた“Ventriloquism”の持つ本質や、このアルバムが形を成していく中でミシェルは「その音楽と自分の歌から得る感覚に集中」できることの贅沢さを感じたと言う。

  

Part 2へ続く↓