ロバート・グラスパー「他人の苦境を尊重できるかってことだ。」新作アルバム『Fuck Yo Feelings』インタビュー(1/2)

ロバート・グラスパーが新作『Fuck Yo Feelings』とヤシーン・ベイ(akaモス・デフ)、そしてハービー・ハンコックからの学びについて語る。

  

2019年10月9日 
By William E. Ketchum III

  

NYのブルーノートで自身のレジデンシーにて演奏するロバート・グラスパー(写真:Dennis Manuel)

  
   

新作『Fuck Yo Feelings』をリリースして3日後、NYのブルーノートにて自身2度目となるレジデンシーが始まったロバード・グラスパーにVIBE が話を聞いた。

  

「この2度目のセットはな、」

   

私が録音を止めると、グラスパーはいたずらな笑みを浮かべて目を見開きそう言った。NYの歴史あるジャズクラブ “ブルーノート”で、私たちはインタビューを終わらせてサウンドボード近くに隣同士で座りながら話していた。

  

その日はグラスパーの1カ月間のレジデンシー(長期間にわたり1つの会場で演奏すること)の3日目で、ブルーノートの階段は開場を待つファンで埋め尽くされていた。昨年ここで行われたグラスパーの1度目のレジデンシーも大盛況に終わった。共演者は、ブラックスターアンダーソン・パークルーペ・フィアスコ、そして客席には、クリス・ロックコーネル・ウェストチャドウィック・ボーズマンなどの有名人の姿も見られた。

  

  

今年のレジデンシーのスタートに現れたのは、言葉を巧みに使いこなす捉えどころのないラッパー、ヤシーン・ベイ(2011年にモス・デフから改名)

  

ロバート・グラスパー(左)とヤシーン・ベイ(右)(写真:Miles Bitton)

  

ベイは1日2公演で4日連続の出演予定となっており、10月5日には、黒のTシャツに黒のパーカーでおなじみの真っ赤なマイクを片手に人気のナンバー『The Boogie Man Song』『Auditorium』『Casa Bey』を披露した。グラスパーとバンドメンバーのデリック・ホッジ、クリス・デイヴ、DJジャヒ・サンダンスによるアレンジは、新鮮で音の重なりに温かさを感じさせるものだった。ベイはバンドに感動している様子で、音楽にノリながら10分間踊ったり回ったりしていた。

  

グラスパーの今までのライブからしてコラボアーティストが予定通り現れるのが通常だが、グラスパーには今回すごく楽しみにしていることがあった。神級のMC、Black Thought(ブラック・ソート) とソウルシンガーBilal(ビラル)のサプライズ出演だ。二人の登場に会場は喜びのパニックに陥った。

 

ブラック・ソートは別次元のリリシズム(抒情性)とブレスコントロールを披露した。バンドがマッドヴィリアンの『Meat Grinder』を演奏する中、ブラック・ソートは100小節もあるんじゃないかと思わせられるほどの言葉を途切れなく紡ぎ出し、ベイと韻を踏み交わした。ビラルは、時を越えて愛される自身の2001年のシングル『Reminisce』を歌い、ベイが同曲中の自身のパートをラップした。また、メイン・ソースのラージ・プロフェッサーも、舞台には立たなかったものの開演前に姿を見せた。

 

グラスパーはライブ中によく観客に冗談を言い、ベイの“はにかんだエクボの笑み”を誘った。たった一晩でこれほど多くの事が起こっているわけだが公演はまだまだ続き、11月初旬にはエスペランサ・スポルディングやルーク・ジェイムズがスティービー・ワンダーのトリビュートを演奏し、スラム・ヴィレッジのT3がJ・ディラのトリビュートを披露する。そして、もとの“ロバート・グラスパー・エクスペリメント”にも様々なゲストが予告なしで登場するだろう。

 

  

ロバート・グラスパーの新作『Fuck Yo Feelings』

 

この“気の向くままに”の精神がグラスパーの新作『Fuck Yo Feelings』に勢いを与えた。グラスパーはバンドと共にアーティストや友人を招き、2日間のジャムセッションを行った。愛する仲間たちとの楽しい時間として始まった今回の作品は、ラッパーのYBNコーデーバディラプソディーハービー・ハンコックヤシーン・ベイムスィーナ、その他数多くのアーティストを呼んだミックステープとなった。

 

このミックスは、「ジャズの伝統」と「ジャズの慣例の打破」を同時に継承していると考えられているグラスパーの最新のリリース作品だ。

 

ピアニスト、バンドリーダー、そして音楽監督として、かの有名なジャズ専門レコードレーベル“ブルーノート・レコーズ”のためにレコードを作り、その卓越した才能で古典主義者にも愛される作品を生み出すグラスパー。だがそれだけでない。彼のアルバム『Black Radio』シリーズのうち2枚はグラミー賞を受賞しており、同作ではヤシーン・ベイ、レイラ・ハサウェイ、エリカ・バドゥなどのラッパーやボーカリストともコラボしている。更に、他のミュージシャンのアルバムへの協力も一貫して続けており、有名なところでは、ケンドリック・ラマーの2014年の大ヒットアルバム『To Pimp a Butterfly』がある。グラスパーはその形式に関係なく、常にジャズのクールさを醸し出し数々の栄光をモノにしているのだ。

  

  

VIBE:去年もここでレジデンシーをしているけど、戻って来た理由は?

グラスパー:去年は色んな人が出てくれたし素晴らしかった。48公演中44公演が完売になって、ショーも人も、やり遂げてくれたゲストもみんなNYで最高の時間を過ごしたよ。ブルーノートが「来年も絶対やろう」と言うから俺も「ああ、やろう」となったんだ。俺は5週連続で家に帰れることはまず無い、でも期間中は1ヶ月間家に帰れるんだ。毎週息子と出かけられるし、ギャラも悪くない。(笑)ツアーに行かずしてツアーしてるようなもんだな。

  

  

Vibe:前回話したときは「NYに住んでるけど、皆がLAでレコーディングするからクリエイティブなエネルギーは大体LAにある」と言っていたね。

グラスパー:レコーディングはLAのほうが多い、皆があっちに引っ越したから。でもクリエイティブなエネルギーは今もここNYにある。俺の経験から言うと、演奏や制作の技術は全部NYで習得して、金稼ぎはLAでするんだ。(笑)NYってのは大体どんな分野でもドープな奴が行く場所だし、競争が激しい。他の場所だったらドープな奴も少ないからそれほど焦りもないが、NYではどこに行こうがクソやべぇ奴がドープってことになる。NYの大学に行ってた頃、そういう連中のおかげでピアノを弾くのが怖くなったことがあったよ。そいつらが俺をステージ上に呼んで人前でドラムを叩かせるんだ。俺はドラムだとピアノより劣って聞こえるからな。おかげで俺は“めちゃくちゃドープになってやるよ”って思った。

 

LAには金を稼ぐのに必要な物が豊富に揃ってる。スタジオやプロデューサー、それに映画も。チャンスはLAにある。以前は多くのアーティストやプロデューサーがNYにいたから、チャンスを求めてNYとLAを行ったり来たりしてた人もいただろうが、今じゃNYはものすごく物価が高くなって、みんながLAに引っ越した。でもNYにはより多くのものがあって、金を出す価値のあるものはこっちの方が多い、それに日光浴だって多少はできる。地震で死ぬかもしれないけどそれはその時だろ。(笑)

  

  

  

VIBE:君は『ArtSchience』『Black Radio』『Black Radio 2』と、アルバムをすごく意図的に分類している。今回の『Fuck Yo Feelings』はなぜ個別のミックステープにした?

グラスパー:俺のアルバムはどれも、ある方法で始まって違う方法で終わる。いつも言ってるよ、「俺のアルバムの半分は、宇宙が作ってる」って。このアルバムは当初、自分のバンドとのジャムセッションアルバムになるはずだったけど、結果的には「みんなを呼んでレコーディングを聴いてもらおうぜ」ってな具合になった。アーティストとのコラボはナシで、ただテイストメイカー(流行を作り出す人)と友人とVIPを呼んで、1小節入れてもらって、20個くらいヘッドフォンを用意してみんなにその体験を共有してもらおうと思ってた。だからアルバムを作る予定じゃなかったんだ。ただ2日間録音してどんな風になるか試そうぜって感じだった。でもみんなが没頭し始めて、いつの間にかモノが出来上がってた。レコーディングを進めて行く中で(2日間だけだけど)、SiRという素晴らしいシンガーソングライターに出会えた。彼は作詞が超絶速かったから俺はこう言ったんだ。「俺たちが即興演奏してる間に何か思いついたら書き留めてくれ。あとで曲になるかもしれない。」そしたらSiRが『Fuck Yo Feelings』の歌詞が思い付いたと言うんだ、まだ1日目の前半だぞ。歌手のYEBBA(イエバ)もスタジオにいたから彼女に歌ってもらったよ。それが今回のアルバムの中心になったんだ。

 

このアルバムは現代の素晴らしいマントラ(真言)だと思うよ。俺のルーツからして『Fuck Yo Feelings』には色んな意味があり得る。今はみんながこの世界で自分の居場所を確保するために戦ってる時代だろ。LGBTQ然り、女性が男性と平等な賃金や権利を求めたりすることも、黒人が平等を求めたり人種差別終わらせようとしてることもそうだ。

 

『Fuck Yo Feelings』はマントラの言葉なんだよ。自分のものではない他人の苦境を尊重できるかってことだ。自分の感情をそこから出して、彼らの戦いを尊重してくれ。その戦いが何なのかを理解し、そして一緒に戦ってくれ。君に関係のない事だからって、彼らが味方を必要としていないわけじゃない。でなけば邪魔しないでほしい。それに、感情は自分自身に嘘をつくこともあるだろ。何かで感情的になっても多くの場合はそれによって自分を次のステップに進めてくれることはない。時々、感情が邪魔して前に進めなかったり、現実について偽りの感覚に陥ったりすることもあるだろうし、「こんな感情クソくらえ!俺はこれをやらなきゃいけないんだ」って思うこともあるだろう。実はそういう感情の扱い方はたくさんあって、このアルバムは多くの人が言わんとしてることだったり、頭の中で言い聞かせてることでもあるんだ。

  

  

VIBE:なるほど。でも、アルバムのジャケットでは上半身裸の君が王座に座っている。僕はこのタイトルが意味するのは「俺を小馬鹿にできてると思ってるアーティストは全員くたばれ」ってことかと思ったよ。

グラスパー:(笑)まぁ控えめに言っても、俺を小馬鹿にできてる自負のある奴がいるとは思わないな。(笑笑)

 

リアルな話、ジャズ界でも恐らくトップ5、ヒップホップ界でもトップ5、それにR&B界でも恐らくトップ5に入るピアニストを、俺は俺以外に知らない。

 

「ジャズだったら俺の方が上手い」なんてのはもちろん言えるだろう。お望みならどうぞ。でもこの3つのジャンルではどうか?俺にはこの各ジャンルで実際にグラミー賞の実績もある。だから『Fuck Yo Feelings』が意味するのは、君が言ったような事じゃなくて俺がさっき話した内容についてだ。

 

でもそれだけじゃない、この3つのジャンルを融合させるスタイルや俺のやっている事に眉をひそめる人たちもいるんだ。並みのジャズミュージシャンたちは枠にとらわれてるよ。しかもその枠ってのは、みんなが馴染みのある心地良いものなんだ。俺がする事にとやかく言う奴は常にいる。だからそれに対しても言ってやる、「Fuck your feelings(テメェの感情がなんだ)」ってな。なぜかって、俺はそういう心地良い“枠”に合わせた音楽もやったことがあるし、できるのも証明済みだ。だからこそ次のステップなんだ。

 

誰の承認もいらないよ、ハービー(ハンコック)が俺を好きでいてくれるからそれで十分だ。(笑)ハービーが味方でいてくれたら、この世で他の誰にも認められなくたっていいさ。

  

ハービー・ハンコック(左)とロバート・グラスパー(右)

 

  

  

Part 2に続く↓

  

元記事 VIBE(英語)
https://www.vibe.com/2019/10/robert-glasper-interview