Caribou(カリブー)「ハードのサンプラーのほうが音が若干良いかもしれないけど、時間の無駄が多すぎる。」

By Future Music 
2020年2月28日

 

ダン・スナイスがFour TetとFloating Pointsのアドバイスを参考に新アルバム『Suddenly』を自宅スタジオにて制作。

  

Caribouのスタジオにて(写真:Future)

 

「自宅スタジオ」という言い方は、音楽を作る空間としてある種のアマチュアっぽさを含んでいるため少し軽蔑的に聞こえることがある。しかし、カナダ出身でロンドンを拠点に活動するダン・スナイスにとっては音楽制作を自宅や家族生活の中心に置くことで楽曲の創出が成り立っている。 

 

スナイスはトロントの外れの小さな町で育ち、そこで音楽制作に目覚めたが、彼の音楽が実際に形になり始めたのはイギリスに移り住んだ2000年代初頭のこと。ロンドンのエレクトロニックミュージックのカルチャーは年月を経て徐々にCaribouのサウンドに欠かせないものとなった。初期のリリース(Manitoba名義)ではプログレッシブやサイケデリックロックの影響を受けたエレクトロニックのサンプリングが織り交ぜられているが、2010年のアルバム『Swim』では大きな進化を遂げ、今までの「バンド」要素をクラブの四つ打ちの上に乗せた独自のサウンドを見せつけた。

 

最近では、長時間のDJセットやクラブ用の別名義“Daphni(ダフニ)”での活動を通してダンスミュージックの世界をさらに深く探求し、フルアルバム2枚と『FabricLive』をリリースしている。

 

 

そんなスナイスが2月28日、新アルバム『Suddenly』をひっさげ戻ってきた。2014年のCaribou初のアルバム『Our Love』以来だ。『Our Love』ではソウルループとモジュラーシンセを合わせたり、ギターやポップなラジオボーカルエディットを断片的に切り刻むなど、自身が様々なものから影響を受けた様子が感じられた。

 

これまでのアルバム同様、『Suddenly』のサウンドもまた、コンスタントな相談役である妻、そして機材の貸し借りだけでなくインスピレーションやアレンジのアドバイスに関しても交流のあるFour Tet、Floating Points、ジェームス・ホールデンといった自身の人間関係の輪にかなり影響を受けたものになっている。

 

 

Future Musicはノースロンドンにあるスナイスの自宅を訪ね、地下にあるスタジオで今回のアルバムができるまでの話を聞いた。

  

Caribouのスタジオにて(写真:Future)

  

制作に関して『Suddenly』とこれまでのアルバムの違いは?

  

大きな意味ではいつもと同じプロセスだったと思う。地下(スタジオ)にこもって毎日曲を書いてた。最初は楽しいよ、ゼロからアイデアを作る感じで。30秒のループを2、3個作ってそれが溜まっていく。毎日いくつかアイデアを出して、溜まってきたら篩(ふるい)にかけて曲になりそうなのを探すんだ。」

 

「そこまで行くといつも状況は悪くなってく。今回は900個を超えるスケッチができたけど、沼に入り込んでいってるよ。ただ10曲だけ作れる人って何なんだろうと思ってた。

 

始めから終わりまで10曲だけ作るのは難しいってこと?

 

ただ10曲だけ作るには物凄い先見の明がいるし、僕の場合は1曲より2曲作って良いやつを選ぶほうがうまく行くと分かったんだ。考えるまでもないことだし、それを楽しんでるよ。10分前まで何もなかったのに今は“これ”があるっていう感覚を。錬金術みたいなものかな。例え話の続きだけど、大抵はしょうもない卑金属や何かにしかならない。でもたまに”ヤバいのが出来そうだ”って時があるし、それが頭に残ったりする。」

 

つまり広い意味では、ここ最近のアルバムとプロセスは似てる?

 

僕はいつも自宅で作るからその点では前回のアルバムと一緒。今回のアルバムは、もっと直接的に、抒情的に、それにテーマ的にも、ここ数年の人生で起こってる事から生まれたものだよ。」

 

「多分聴けば分かるけど、音楽は僕たちの家族生活にすごく溶け込んでる。子供たちが帰って来てドアをバンバン叩くから一人の時間なんて無理な時もあって、それを嫌がる人は多いけど僕はそれが好きなんだ。」

 

Caribouのスタジオにて(写真:Future)

 

「(Floating Pointsの)サムのスタジオに数週間こもったことがある。サムはDJの仕事で遠征してて、“そこにある物は全部使っていい。置き去りになってるだけだから”と言われた。すごく生産的だったけどそれは多分、新しい機材やサウンドや物がいっぱいあったから。一人になれる空間の良さも感じられた。でも僕のセットアップでしかできない事があって僕はそれを音楽に求めてる。その音楽に僕という人間を象徴してほしいと言うか。」

 

じゃあ各アルバムが自宅生活を切り取るスナップ写真になってると?

間違いない、フォトアルバムや日記みたいなものだ。僕が見返すには良い記録になるだろうなと。みんなは聴いてる音楽から色んな事を受け取るんだろうけど、僕にとっては、と言っても暫くこのアルバムを聴くことはないけど、もし僕が過去のアルバムを聴いたとしたらその当時経験していた事を思い出すだけだろう。」

 

各アルバムを書く中で、そのスナップ写真をどれだけ意識的に作れてる?

 

ほんとにただ起こるんだよ。例えばキーラン(Four Tet)はアルバムを作る時、最初にアイデアとタイトルが浮かんでるらしい。“今回はグライム、ラジオサンプル、ニューエイジ・ミュージックで行く”って感じで。その時のアルバムが『Beautiful Rewind』だね。彼にはそれができてしまう。」

 

僕の場合は真逆で、座って考えて、進めつつ小さなヒントやアイデアを得る。それをやるにはのたうち回るしかない。アルバムを初めて通しで聴ける時はいつも魔法みたいな瞬間があるんだ、ばからしく聞こえるだろうけど。収録曲はもう何千回と聴いてるのに、それを順番に並べて聴くと“OK、アルバムができた”って瞬間がある。まったく意図してないからいつも自分でビックリするけど、それもプロセスの一環として起こるんだ。」

 

それが起こるのは曲を書くプロセスのどの辺?

 

そのアルバムが完全に出来上がるまで起こらない。それまでは這いずり回ってるから45分かけてアルバムを聴いてる暇がない。当たり前だけど、アルバムとしてまとまりそうだなって時は転機みたいなものがあるんだ。でもこの5年のうち4年は、このアルバムは完成しないんじゃないかと思うくらいだったよ。いつもそう感じるんだけど。多分ほとんどの人は僕と同じだと思う。」

 

ある時ふと聴き返して、この曲は絶対アルバムに入れようと思うことがある。

 

「ある時ふと聴き返して、この曲は絶対アルバムに入れようと思うことがある。それが1曲だけじゃなくて雪だるま式に増えたりするんだ。最近はアルバムを制作してるとこういう変な事が起きる。全てがマッチし始める一夜が必ずあって、作業を終えてベッドに行くんだけど、アイデアが頭に浮かんできて眠れないから起き上がってそれに取りかかる。これは自宅制作だからできる事だよね。」

 

自宅スタジオなら簡単に行き来できるからね

  

「まさに抜き足差し足で階段を降りてスタジオに戻るよ。そんな風にして“アルバムが出来るぞ”って瞬間がやっと分かる。そしたら後は何が必要かを考えるだけだ。例えば今回のアルバムで最後に作ったのは1曲目のトラック。他は全部揃ってたからあとはオープニングのトラックが必要だった。時には2つを繋ぐ入口になるルートが要ることがあるんだ。自分が作った音楽を熟知してるから何が必要か分かるんだよ。」

 

『Suddenly』というアルバム名はプライベートに結びついてる?

 

このアルバム名は妻が思い付いた。というのも娘が最近この単語(suddenly=突然)を覚えて、四六時中使ってたから。でも文脈に合ってない使い方をするからおかしくて、それもかわいいんだ。それで妻がアルバム名にしたらどうかって。いろんな所でこの言葉に出くわすよ。」

 

「サム(Floating Points)にイントロ曲と完成したばかりの曲を何曲か聴かせに行ったら、音楽的な話をするサムの言葉に何度もsuddenlyって単語が出てきた。それから、私生活でもすごく大きな出来事がいくつかあった。電話が鳴って出てみたら人生が一変してしまうような出来事がね。」

 

「だからそこでもシックリきたんだ。状況にあってたし、こういう不思議なことが楽曲内の音的な面でも重なった。」

 

『Suddenly』で使ったシンセや機材は前作『Our Love』と違う?

  

「『Our Love』は僕的にはすごく磨かれていて輝いたサウンドだ。リッチな音のポリシンセをたくさん使ったよ。音の合成は今世界中で流行ってるね、不可避なくらいに。そこら中で新しいシンセが発表されて映画『ブレードランナー』のサントラみたいな音が出せるようになった。僕はそこから少し引っ込んでみようと思ってた。みんなと同じ音を求めるのを避けるという意味で。

 

「今回はサンプリングが多かったし、Omnisphere(オムニスフィア)もいっぱい使った。このアルバムのギターとピアノ部分によく使ったよ。サンプリングに関してはヒット曲を色々引っ張ってきたけど、アルバム内の曲のサンプリングをループして全体に使った曲も何曲かある。」

 

 

このアルバムで一番のシンセは自分で作ったんだ。モジュラーシンセからポリシンセを作ろうなんて、まずやるべきじゃないけど。

  

「このアルバムで一番のシンセは自分で作ったんだ。モジュラーシンセからポリシンセを作ろうなんて、まずやるべきじゃないけど。自分のモジュラーギアとReaktor Blocksを使って、ソフトウェアとハードウェアのハイブリッド型をデザインしたよ。(Synthesis Technologyの)E370って知ってるかな?4つのウェーブテーブル・オシレータが4つのフィルターに繋がってるんだけど、そのCV全てをデザインしてコンピューター内でコントロールできるようにした。プロジェクトを開いた時に色んなパラメーターを呼び起こせるようにしたかったから。」

 

ただの試作のつもりでやったら、結果的に4ボイスが個別のことをできるようになった。例えば、4つの搭載オシレータそれぞれのウェーブテーブルのポジションを調整してるQuadrature LFOを送ると、1コードを4ボイスで維持できるしそのウェーブテーブルで全部違った地点に存在する。これは僕が知る限りではハードウェアのポリシンセではできない。今回のアルバムの最初と最後の曲のシンセで使ったよ。」

 

そのウェーブテーブルボイスを使えば更に動きが出せる?

  

変な感じの音になるんだ、劇的な変化をつけることもできるよ。そのコード内の1ボイスをデチューンしたりね。そういう能力や可能性を持ってるし、その要素全てが音的におもしろい。制作にハマるキッカケみたいなものだよ。コードやアイデアを考える刺激になる。」

  

機材からインスピレーションをうけて音を作るタイプ?

 

うん、アイデアベースで曲を作る場合はそうかな。同じように、『I Love You』っていう収録曲にはギターっぽい音が入ってる。あれは実はキーボードのギターレジスタで弾いたOmnishphereのベース音で、ピッチベンドと変なのが全体的に入ってる。音が良い感じになってるのは、全力で本物の楽器を真似たってのもあるけど、本物の楽器じゃ絶対できない方法も使ってるからだ。」

 

そうやって状況に沿って音を使うのが好き?

 

あぁ、エレクトロニック・ミュージックの歴史は大部分でそうなんだ。303を間違った方法やローバッテリーで使ったりね。できる時はいつでもトライしてみようと思った。ピアノを使った曲ではグランドピアノの音なんだけど変なピッチベンドを入れてある。もちろんそんなの本物のピアノでは出せない音だ。」

 

「他には、ギターを真似た音を使った曲はいっぱいあるんだけど、本物のギタリストに頼んで弾いてもらったのも1曲ある。微かだけど、みんなを混乱させたくて。ギタリストならこのアルバムを聴けば “なんだ?これはギターじゃ弾けないぞ…”と思うだろうね。」

 

サンプリングはハード派?ソフト派?どちらにも入れ込んでないようだけど…

 

うん、どっち派ってことはない。敬意を込めて言うけど、君たち雑誌社は機材を最高に良いものに見せるのが上手い。ジャーナリストとしての君たちはその考えを押してるわけじゃないと思うけど、雑誌のファンなら “どうしよう、この最新機材を買わないとあの人みたいなサウンドの新曲は作れない”と思うかもしれない。僕はそういうタイプじゃないんだ。

 

敬意を込めて言うけど、君たち雑誌社は機材を最高に良いものに見せるのが上手い。

  

「僕の友達、特にサム(Floating Points)は物事を掘り下げて完璧に理解するタイプの人間だ。ジェームス・ホールデンなんか多分もっとそう。一つの楽器の可能性を余すところなく絞りだす。僕は結構めんどくさがりで、今回ハードとソフトのポリシンセを作ったことは自分としては意外だった。まだ音一つ鳴らない物にそんなに労力を注ぐなんて。音楽的に生産性のある物になるまで何時間も掛かったよ。」

 

ハードのサンプラーのほうが音が若干良いかもしれないけど、時間の無駄が多すぎる。アウトボードも同じ。UREI1176のアウトボードコンプレッサーを持ってたこともあるけど、ケーブルの抜き差しにうんざりしてきて。レイテンシーを補うのにも。あ〜もうやめだ、ソフトに入ってるので良いじゃないかと思った。」

 

最初の4枚のアルバムや『Swim』も全部ソフトで作ったよ。機材は一つも持ってなかった。パソコンと電話で商売する用のマイクだけで、レコードからサンプリングして、確か1つか2つ、しょうもないシンセを使った。そしたら友達が、特にジェームス・ホールデンがこれを全部モジュラーでやってたから僕も感化されて調べてみたんだ。」

 

「今でもそっちの道にどハマりしたくないとは思ってる。でもOB-8みたいにプラグインだと同じ音にならないのもあるね。そこには何か魔法みたいなものがあって現時点ではまだそれを移行できないんだろう。その差は常に縮まってきてはいるけど。」

 

「もし今回ハードとソフトを継ぎ接ぎして作ったポリシンセがなかったら、どんなアルバムを作ってたか?もしOB-8を持ってなかったら?と考えると、もっと良いのが出来てたとか悪いのが出来てたではなく、違ったアルバムになってたと思う。僕はただ楽しめる範囲でハードウェアを取り入れてるだけだ。

 

「例えば、僕のスタジオにはBuchla(ブックラ)の小さいラックがあって、Buchlaで作られた大好きな曲が多いからね、そのラックから音を持ってくることもできるけど、ただ面倒くさ過ぎる。恥ずかしい話だけどまだ使ってないんだ。置いてあるだけで楽曲にはまだ全然使われてない。」

 

Caribouのスタジオにて(写真:Future)

 

Buchlaを買ってどれくらい?

   

「3,4年くらい。ラックの音を使うこともできるけど、みんなのBuchlaと同じ音になるだけだ。サムなら何かできるだろうけど…」

 

サムの最近のアルバムはBuchlaを使ってるよね?

 

そうなんだ、サムはそれに時間を割いてちゃんと理解もしてるし独特の音を作れてるけど、僕はそんなにまめじゃないBuchlaから何も新しいものを得られてないし、他と違う音を見つけられるとも思わない。でもピッチベンドを使ったOmnisphereのギターは他の人の曲で聴いたことがないし、Buchlaよりたどり着きやすかった。そういう意味では僕は何でも集めたがりかもね。“わ〜これ輝いてるな、分かりやすそうだし”って感じで。」

  

じゃあ、音の合成を掘り下げるより、音を見つけて違う文脈に当てはめ直すほうが好きと言える?

 

うん、それに組み合わせる事も僕にとっては重要。それが僕の持ち味になってると思う。サムと自分のアルバムを聴き比べると、サムのはもっと一貫性があって、くり返し同じ要素を使うけど巧みにアレンジし直してる。僕の場合は、70年代のスタジアムドラムの音に細かく切り刻んだギターソロを終わり部分で合わせて、いつものCaribou要素と融合させたりしてる。それが今までの自分の曲と違ったものになると分かってるんだ。その要素が自分のアプローチとしては新しいから。こういう事が今までの僕のアルバムに反映されてると思うし、だからこそアルバムが出来るたびに移り変わりがある。アルバム同士が同じような音にはならないんだ。」
 

サイケロックやダンスミュージックなど、各アルバムで新しい影響を音に盛り込んでるようだけど…

 

過去に作ったアルバムの何枚かは、今思えばやり過ぎたかなと思う。2007年の『Andorra』はサイケロック風のアルバムで作詞作曲に集中してたし、“パソコンでサイケロックのアルバムを作れるか?”という発想で作った。それが良くなかったとは思わないけど、参考にした音楽と似過ぎてると感じるよ。でも、次のアルバム『Swim』は影響を受けたものを大いに参考にしつつ決定的に自分らしい音になってる。ここ最近のアルバムで大事にしてるのは、現代の音楽にかみ合わせていくこと。でなきゃ、60年代のサイケロックの名曲がすでに十分存在してるのに、今更それを作る人間が更に必要か?と言われてもしょうがない。」

  

Caribouのスタジオにて(写真:Future)

 

CaribouとDaphniの使い分けは?楽曲制作時にどちらで行くか決めてる?

 

主な違いは“目的”だ。Daphniの新曲を作る時はDJの仕事がある時が多い。『Fabriclive』用に作った曲を除いて、ほとんどの場合はプレイするための何か新しいものが欲しいからやってる。Daphniでの楽曲は常にダンスミュージックや、Ben UFOとかその界隈の人たちに合うように作られてる。(Daphniには)そういう目的があるんだ。Caribouは全体を包含してるけど、僕の音楽のテイストや自分のプライベートでの出来事を記した日記みたいなものだね。

 

「ここ5年間は間違いなく“Caribouのアルバムを作ってる”という姿勢でほぼずっと制作に臨んでる。たまにDaphni用の曲を作ることもあったし今年前半にDaphni名義でEPも出したけど、全部ササッと作ったものだ。ある特定のイベントでプレイすることになってたから。」

 

「今回のアルバムではどっちでもいけた曲は1つもない。前作に『Mars』という曲があって、それはDaphniでもいけそうだったけど最終的に(Caribouの)『Our Love』にしっくり収まった。2つに分けることをすごく大事にしてるわけじゃなくて、目的の違いで自然にそうなったんだよ。それに当然だけど、基本的には歌を乗せられそうな曲ならDaphni用の曲じゃない。」

 

Caribouのスタジオにて(写真:Future)

  

Caribouのアルバムの独特なボーカルはどう作ってる?

 

自分の歌に関して言えるのは、僕の声がすごく限られてるということ狭い範囲で、しかも大体優しく裏声で歌うことしかできない。シンガータイプじゃないんだよ。バンドでボーカルをやるとは思ってもみなかったから自分で歌うことになるなんて可笑しな話だけど、自分で作った音楽に合う歌い方を見つけられて結構満足してるんだ。そのおかげで歌と音が調和してるし、色んな意味で自分の声の制約が方向性を定めてくれてる。」

 

「マイクは前より良いのを使ってるし録音方法も向上してるけど、プロセスは前とほぼ同じ。ボーカルを録る時は2小節をループして、まず“ラララ”とか意味のない音節で歌を入れる。歌詞が出来たら2小節のループにワンフレーズを当てて100回位くり返し歌う。そうすると上手くなるからね。1回目と80回目の違いは聞けば分かると思う。」

 

「その後それを全部並べて、聴いてみて、切るっていう骨の折れる修繕作業に移る。1つのテイクから3つの単語をそれぞれ切り離すんだ。そのままで良いかもしれないけど、中にはその3つの単語に対して本来もっと“何か”を持ってるものもある。この作業を一曲丸ごとやるからボーカル録音は一番最後にやる作業の1つだし、恐れてる作業でもある。」

 

「僕はキーボード系の楽器のほうがアイデアが浮かんでくるからやり易いんだけど、歌だとしょっちゅう自分の限界にぶち当たる。でもそれが僕の音楽の一部になってると思うし感情も入ってくる。“こうしたい”ってもがく戦いが僕にとっては重要な部分になってるんだ。

 

「と言いながら、実は今回はボーカルをすごく楽しめたよ。自分の声で起こってる事にただ意識を合わせるプロセスをね。」

 

シンセやドラムと比べて、自分の声を扱う上でプロデューサーとして客観的になるのが難しいと思ったことは?

 

「次第になくなるよ、何年かして気にならなくなった。録音で聞く自分の声に単純に慣れたんだ。でもボーカルも入った状態で何カ月も同じ曲を作ってると、プロデューサーというよりエンジニア目線になる。

 

つまり分けて考えられると?

 

うん、かなり客観的に聴ける方だと思う。このアルバムに関してはキーランと僕、それから特に、妻と僕で意見が割れることが何度かあった。“このボーカルは絶対録り直すべき”という妻に対して、僕は“完璧じゃなくても大丈夫”ってね。それも性格かな。」

 

 

ご意見番にキーラン(Four Tet)を選んだようだけど、キーランはリードシングル『Home』のアレンジもやったね。彼が君のアレンジをやるのは初めて?

 

今まででその時だけだった。『Home』は冒頭にブレイクビートを使ってて、ボーカルが入ってくるともっとメロウな感じになる。元々はブレイクビートがずっと鳴ってるバージョンと超メロウなバージョンを2種類作ったんだ。その間は数ヶ月空いてたんだけど、キーランは僕が送ったものを全部保存してて、この2種類を交互に、というかヴァース-コーラス形式で使うことを思いついた。今聞くとそれがはっきりと分かるね。僕は全体像を見失ってたけど、キーランからのメールにはすでに構想が添付されてた。“頭の中で聴こえてる通りに繋ぎ合わせてみた、簡単だったよ”って感じで2種類を1曲にまとめてくれたんだ。

 

じゃあキーラン自身が編集を?

 

「そう、それにちょっとした変なマッドリブっぽい部分もキーランがやったよ。ブレイクビートが1小節とか半小節入ったり、予想外のタイミングで鳴ったりするんだ。そういう事に関して彼はすごく洞察力がある。

 

「その後に僕がプロジェクトに戻って、彼が繋ぎ合わせて作ったものを再現して手を加えていった。キーランが実際に手をつけたのはその時だけ。いつもは口で必要な要素を説明するだけだよ。」

 

バンド形式の生演奏はスタジオでの意思決定にどれくらい影響する?

 

影響されないようにしてる。ずっと前にそう決めたんだ。2003年にバンドとして(Caribouの)ツアーを始める前は今みたいな感じになるなんて考えもしなかった。僕はライブで演奏できないという理由だけで曲を作ったり作らなかったりするのはナシだと決めた。アルバムはアルバムだし、ライブに変換できない方法で作られてる曲も、それはそれで良いし、ライブでやらないってだけのことだ。」

 

「と言っても、このアルバムの『Can’t Do Without You』や『Never Come Back』を作ってる時は“これはフェスでやるのが楽しみだ”と思わずにはいられなかったね。でもそれが主な原動力じゃないのはアルバムを聴けば明らかだと思う。」

 

 

“バンド”向けに作られたアルバムじゃないのはハッキリと分かるよ

 

「バンド用にも、大部屋やフェスのステージ用にも作られてない。でも何年も音楽を作ってきたから色んな状況でプレイできる曲も十分にある。僕たちの場合はダンスミュージックのフェスでも、グラストンベリーでも、小規模のクラブや隠れ家的な所でもできる。すごくラッキーだと思うよ。」

「その事(前述の内容)に全ての決定権を持っていかれないようにすると決めたから、ライブの仕方に囚われることはあまりない。フォークシンガーの後にだって演奏できるし、イビザ島でも、クラブでLoco Diceみたいな人たちの前にも演奏できる。幅広くやれる状況を楽しんでるよ。」

 

バンドでライブする時、ステージ上での君の役割は?

 

「僕がほとんどの曲を歌ってるしシンセも弾く。ドラムもね。メンバー全員がサンプルをトリガーしたり、1人が別のメンバーの演奏してる楽器のパラメーターを弄ったりもするよ。決まった役割はないけど僕は大体ずっとキーボードを弾いてるかな。

 

Caribouのスタジオにて(写真:Future)

 

ライブのバンドメンバーはずっと一緒?

 

メンバーはみんな同じ。このバンドでギターとシンセを弾いてるライアンは、僕が高校の時に初めて組んだバンドのメンバーでもあった。Caribouをバンド形式でやるべきだと最初に言ったのはライアンで、それ以来ずっとメンバーだよ。」

 

「ドラムのブラッドは、2000年に僕たちのライブのオープニングをつとめてくれたバンドのメンバーで、2007年に加わった。ベースと歌のジョンは2009年に。」

彼らはアルバムには参加してないんだ。ある意味そこが境界線みたいなもので、アルバムは自分で作るけどライブはまさにコラボレーションだね。トロント、サンフランシスコ、LA、ロンドンとか色んな場所でライブするよ。今現在はものすごい数のAbletonのプロジェクトがやり取りされてて、この後は1ヶ月間のリハーサルが待ってる。」

 

メンバーとは実際に集合する前に遠隔でセットについて話し合う?

 

そうだね、それに僕が指示するわけじゃない。もう長年の付き合いだから信頼してるし、スタジオで作ったものをライブ用にリバースエンジニアリングする経験値もある。最近だとそんなに難しいことではないけど。僕たちが始めた頃は、エレクトロニック・ミュージックの生演奏は不可能に近かったけど、今は色んな技術があって以前よりずっと簡単になったよ。

 

Caribouのスタジオにて(写真:Future)

 

 

元記事 MusicRadar(英語)
https://www.musicradar.com/news/caribou-even-if-a-hardware-sampler-has-a-slightly-different-sound-its-too-much-of-a-faff