Brexit(英国のEU離脱)によりツアー産業が大打撃を受ける中、レディオ・ヘッドのコリー・グリーンウッドが声をあげた。

「僕らのバンド、レディオヘッドがヨーロッパで初めてクラブのライブをやったのは、1993年6月2日、デンマークのオーフスにある“Huset”だった」と、ガーディアン紙で話すレディオヘッドのコリン・グリーンウッド氏。「ディーゼルの臭いがする、みすぼらしい灰色のカーテンが付いたポンコツの小型バスに乗り込んで、小さなクラブやフェスの空いた一枠を埋めに、スウェーデンやオランダやフランスを回った。(外国は)牛乳の種類もいっぱいあってね。異文化に自分たちの音楽を届けたくて友達と一緒にあちこち行ったよ、すごく楽しかった。」
まだユーロ通貨がなかった頃、ツアーでヨーロッパの国を跨ぐたびにツアーマネージャーが換金してくれたその国の貨幣で一杯飲みに出かけたりした。ライブでは国によってオーディエンスの反応にも特徴があり、イギリス人の自分たちを温かく迎えてくれたと同氏は言う。
「ビートルズにとってのハンブルクのように、ヨーロッパはレディオヘッドがバンドとして成長する上で欠かせない場所だった」とグリーンウッド氏。「おかげでUKのルーツから解放された自分たちを見ることができたし、オーディエンスがどこにいようと彼らに音楽を届けていく人生が想像できた。」
2018年、グリーンウッド氏はベルギー出身のシンガーソングライター、Taminoとブリュッセルでライブを行った。Taminoは、Jacques BrelやTim Buckley、90年代のシアトル・シーンやエジプトの伝統音楽など、幅広い音楽から影響を受けている。「一緒にできて光栄だったよ。オックスフォードから自分のギターを持ってユーロスターに飛び乗って、彼と3日間ライブをやった。その間はライブハウスの向かいの小さなホテルに泊まったよ。ビザもカルネ*もいらない。ただ音楽の自由を楽しんだ。」

しかし、こんな風に自由に音楽の旅ができたのも過去の話か。2021年1月1日に発効されたBrexit(英国のEU離脱)の取引協定により、アーティストはヨーロッパツアーを行う際に各国のビザ取得を強いられる可能性が出てきた。
評論家たちは、これがアーティストにとって莫大なコスト増となり結果的にミュージシャンがヨーロッパツアーを行えなくなるだけでなく、主催者側もイベントにおいて出演者の選択肢が減ってしまうだろうと指摘している。
コリン・グリーンウッド氏はガーディアン紙でこうも綴っている。「Brexit前は、カルネ(物品の一時輸入のための通関手帳)が必要なのはノルウェーとスイスだけだったけど、今後は南米のように各国のシステムに沿って“第三国”(の外国人)として扱われるかもしれない。エイドリアン(レディオヘッドのツアーの会計士)が言うには、1万ポンドのギターを持ってくのに650ポンドとVAT(付加価値税)がかかる可能性もある。旅費や宿泊費はすでに高いし、追加の書類や出費も急速に上がってツアーには厳しい状態になるだろう。」
また、ツアーアーティストのために状況を立て直すよう政府に主張したと言う。
「イギリス政府はBrexitの交渉期間中にクリエイティブ産業にとって不十分な交渉しか行えなかったことを認めて、ヨーロッパツアーに関する規定の再交渉を目指す時期に来ている」とグリーンウッド氏。
「僕の国(イギリス)の音楽が素晴らしいのは、国境も境界線も無視してるから。素晴らしい愛国心の源であり、自信と喜び、分かち合う情熱の源だよ。僕はこの国と、今までこの国が世界と共有してきたすべての音楽に誇りを持ってる。それにイギリスの人たちも年齢や文化を超えて誇りを感じていると確信してる。この国の音楽は、文化的に困窮したナショナリズムであるBrexitへのアンチテーゼだし、それが衰退したら僕たちはみんな剥奪されたようなものだ。」
また、先週末にはエルトン・ジョン氏が意見記事で英国政府を酷評している。
同氏は最近、英国文化長官オリバー・ダウデン氏とBrexitの取引協定にビザ免除のツアーが含まれていないことについて話した。その後に、ダウデン氏とは「とても前向きな」会話をしたと述べているが、ビザ免除のツアーについてはまだ「アリ」とは言えない。
英国政府にEUとの再交渉を呼びかける嘆願書に28万人以上のミュージシャンや音楽ファンが署名したことを受け、2月8日、議員らはこの問題について議会で話し合うことになった。UK音楽の今後を左右する大事な時期、まだまだBrexitの動向から目が離せない。
参考ソース:
The Guardian(英語)
https://www.theguardian.com/music/2021/feb/08/european-touring-radiohead-brexit-colin-greenwood