ダニエル・シーザー|メジャーレーベルに所属せず自主制作を続ける

「契約書にサインした瞬間、自分のアイデアも可能性も誰かに引き渡すことになる」と、22歳のシンガーソングライター、ダニエル・シーザーは言う。「主導権はなくなってしまうんです。」

By ケヴィン・リッチー、2017年8月16日

Photo:Samuel Engelking

「音楽業界についてすごく苦手なことがいっぱいある」とダニエル・シーザー。「組織や、時間に正確でなければいけないとか、規則的な世界で機能するために必要なことです。」

8月のある晴れた午後、音楽フェスWayHome(ウェイホーム)の出演を終え、次のOsheaga(オシェアガ)でのライブを控えていたシーザーは、ホームのトロントにいた。前週末に行われたWayHomeでは、並木のあるWayAwayステージが彼のファンでいっぱいになった。リリースから2カ月足らずのゆったりとした夏のナンバー“We Find Love”をファンが大合唱する様子も見られた。

しかしシーザーにゆったりする時間などない。フェス出演に加え、最近はトロントでの無料野外ライブ、友人シーン・レオンのMod Clubでのコンサートへのゲスト出演もあった。今回のインタビューは最東端にある制作場で行われた。華奢な体でソファーにもたれかかるシーザーにインタビューをする間、マネージャーのジョーダン・エバンスがノートパソコンで仕事をしながら横で聞き耳を立てていた。

エバンスは、マシュー・ブルネットと共にシーザーの音楽を共同制作しており、マネージャーと作家5名からなるグループの一員である。自慢げに自分の話をするアーティストは多いが、シーザーはグループとしての努力についてもオープンに話す。会話中、明るく茶目っ気のある笑顔を浮かべたかと思うと、歯を見せて大きくにっこり笑うことが多かった。シーザーは“we(僕ら)”という言葉を使う。それは決して自分がグループの“王様”だという意味ではない。

8月25日、シーザーはレーベルGolden Childからデビューアルバム“Freudian”を自主リリースする予定だ。米国でヒットしたトロント出身の大物R&B・ヒップホップアーティストは大抵、その後メジャーレーベルと契約するが、シーザーはあくまで自主制作の道を進んでいる。

エバンスとブルネットは、シーザーの最初のミュージックビデオに資金提供し、彼の成功に投資した。彼らは“Freudian”の制作に8カ月を費やしたが、その期間中ずっと、著名人らの名前をあげ契約にこぎつけようとするレーベル代表者たちのアプローチを頑なに断り続けた。

「この時点でのレーベル契約は、みんなで話し合った結果よくないだろうと判断しました。カナダにいながら音楽活動の資金調達をするのは珍しい。原盤権が僕らにあるから利益を再投資できる」とシーザー。「今でも豪華な暮らしはしていないし、かなりの時間をマネージャーの家で過ごしてる。僕らはそれが良いと信じてるんです、僕はかなり助けてもらってるけど。」

シーザー(本名アシュトン・シモンズ)は、3年前のゴスペル調のソウルEP“Praise Break”で話題になり始め、その翌年にEP“Pilgrim’s Paradise”をリリースした。その後、2016年春のMod Clubでのデビューライブは、チケット完売となった。

彼の生み出すソウルにはどこかアナログなクラシックさがあり、空想的な、日曜日の朝のような親密さが強調されている。独特な雰囲気のタッチや繊細なエフェクトがパンチのあるポップな作風に気だるさを与え、彼の落ち着いた自信と脆さが混在する温かく安定したファルセットを彩る。

シーザーの曲は別れの歌ですら、ほろ苦さだけでなく寛容さと敬意を感じさせる。たとえどんなに困難なことでも、すべての経験は価値あるものだと彼自身が感じているからだろう。

「命をくれてありがとう、アドバイスをくれてありがとうって、君に言いたいだけなんだ」と、“Freudian”のタイトル曲で歌われている。バックシンガーが歌い始めるとメロディーが徐々に小さくなっていく。

“Blessed”の歌詞はもっと簡潔だ。「もうボロボロだけど、君と離れずにいられて嬉しいよ。」

シーザーはよく「頭を雲に突っ込んでる」と自分自身を描写する。彼は時折、正しい言葉を探し、業界関係者の名前を出すのにエバンスの様子をうかがっているようだった。

「このアルバムは愛についてだけど、それだけにはしたくなかった。時間が経つにつれて、もっと複雑なことについて書きたいと思った。」

もっと初期のEPでは、地元アーティストのBADBADNOTGOOD(バッドバッドノットグッド)、リバー・タイバー、シーン・レオンとコラボしている。“Freudian”でその枠を広げ、ソウルやR&B界の新たな前衛アーティストたちをボーカルに招いた。The Internetのボーカルで元Odd Futureメンバーのシド、セッションソングライターからアーティストになったカリフォルニア出身のH.E.R.、同じくカリフォルニア出身のカリ・ウチス、そして人気上昇中のトロント出身シャーロット・デイ・ウィルソンだ。トロント拠点のボーカルグループCaDaRo Tribeも楽曲の至る所で登場する。

このアルバムに漂う女性的なエネルギーはシーザーの意図したところではないが、アルバムにふさわしいものとなっている。人間嫌いや残酷さを歌う現代R&Bが多いのに対し、“Freudian”は男らしさをひけらかす内容ではない。

「女性のエネルギーはすごく心地よくて美しい全体が会話のように感じられるものにしたかった。僕が頭の中で話かけている女性を表現してるんです。」

しかしその会話すべてが空想なわけではない。H.E.R.(未だ正体を明らかにしていない)とのコラボ曲“Best Part”は、シーザーが他のアーティストとスタジオセッションを通して初めて共同作詞した曲だ。H.E.R.と出会ったのは、黒人系アメリカ音楽で最も大きな影響力を持つA&R*の一人、トゥンジ・バログンを介してだ。同氏はブライソン・ティラー、ゴールドリンク、カリード、ウィズキッドをRCA/ソニーミュージックとの契約に導いた。
(*A&Rとは、アーティストの発掘・契約・育成とそのアーティストに合った楽曲の発掘・契約・制作を担当する職務)

自主制作といっても、シーザーにはアドバイスや指導を頼めるビッグなコネがある。その一人がシカゴ拠点のチャンス・ザ・ラッパーだ。チャンスは自主リリースでデジタル配信のみのミックステープ“Coloring Book”で3つのグラミー賞を受賞している。

「チャンスにはすごく助けられてる、助言をくれるんです」とシーザー。「レーベルがないと支出関係をすべて自分たちで把握しないといけないけど、チャンスのチームはそれを助けてくれる。アーティストとビジネスマンとして両立しないといけない。でもこの二つは在り方として相反してます。」

元記事 NOW Magazine(英語)
https://nowtoronto.com/music/features/daniel-caesar-independent-soul/